対抗関係(対抗問題)は、とても重要な論点です。試験において頻出論点です。もちろん法学検定などの他の資格試験においても、頻出事項です。民法を勉強していく上で、いたるところで出てきます。しっかり勉強しましょう。

 

 

総論

 

■事例1■

Aが土地を所有していました。Bは、Aからその土地を売買により取得しました。 ■   ■

 

事例1の場合、AB間では、Aの「土地を売ります」、Bの「土地を買います」という口約束によって、契約が成立します。そして、契約の成立により、所有権はAからBへ移転します。

 

したがって、BはAに対しては、この段階で所有権を主張できます。当事者間だからです。

 

もし、Aが死亡したとしても、BはAの相続人に対しても、同じように主張できます。なぜなら、Aの相続人はAの立場(Bに所有権を主張できないという立場)も相続おり、Aの相続人は、Bとの関係では当事者間ということになるからです。

 

よって、BはAの相続人に対しても、主張できるのです。

 

ところが、Bはこのままでは「第三者」に対しては、所有権を主張できません。Bが「第三者」に対して所有権を主張するには、対抗要件が必要です。

 

具体的には、不動産の場合は「登記」(177条)、動産の場合には「引渡」(178条)があることが必要なのです。

 

 

■補足■

「登記」というのは、上記の例で言えば、AB間で契約が成立し、所有権が移った後に、必要な書類を法務局という役所に提出します。そうすると、法務局にある登記簿に、今まで所有者は「A」と書いてあったものが、所有者は「B」と変わるのです。その登記簿の記載のことをいうのです。

■  ■

 

 

ここでは民法のいろいろなところで出てくる不動産について、話をしていきます。なお、ここでは所有権に限って話を進めていきますが、抵当権等、物権同士の関係においては、基本的に同様にあてはまります。

 

 

「第三者」とは

第三者に対しては、Bは所有権を主張できないとしても、問題なのは、どのような者が「第三者」なのかです。

 

 

■事例2■

Aが、その所有する土地をBに売却しました。Bが登記を具備する前に、AはCにもその土地を売却してしまいました(二重譲渡)。

■   ■

 

 

このような場合を二重譲渡と言います。Aを起点として、BとCに「二重に(二人に)譲渡している」からです。まず、前提として、事例2のような二重譲渡自体は、有効です。

 

二重譲渡の場合、BもCもAに対しては、登記を備えなくても所有権を主張できます。当事者だからです。

 

しかし、事例2のような二重譲渡の場合、BはCに対して、またCもBに対しては、登記を備えないと、土地の所有権を主張できません。

 

したがって、BにとってCは「第三者」にあたるということになります。逆に、CにとってもBは「第三者」にあたるということになります。尚、このようなBとCの関係を、対抗関係といいます。

 

では、どのような者が「第三者」なのかというと、第三者とは、「登記欠缺(「けんけつ」と読みます)を主張する正当な利益を有する者」をいいます。

 

上記の事例2にあてはめて、かみくだいて言うと、「B(またはC)が登記を具備していない(欠缺とは「ない」という意味です)ことを主張できる正当な利益を持っている者」というぐらいの意味です。

 

この二重譲渡が、対抗関係になるものの典型例です。二重譲渡と言ったら対抗関係、対抗関係と言ったら二重譲渡、と言ってもいいくらいです。

 

対抗関係はどういった場面の問題なのか、第三者に権利を主張するには対抗要件が必要であるということは、とても重要なので、しっかりと覚えておいて下さい。

 

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背信的悪意者は、対抗要件のところを勉強する際には、必ず出てくる重要な論点です。試験によっては、毎年のように出題されています。どのような者が背信的悪意者なのか、まずは基本をきちんと把握しましょう。


ある者とある者が対抗関係にあったとしても、「第三者」にあたらない者には、登記がなくても、所有権を主張できます。

こう言っても、何が何だかわからないと思います。具体例を見てみましょう。


■事例■
Aが所有する土地を、Bが売買により取得しました。しかし、Bはいまだ登記を取得していませんでした。そこでCは、Bが移転登記を受けていないことに乗じ、Bに高値で売りつけ、不当な利益を得る目的でAをそそのかし、Aから当該土地を買い受け、移転登記を受けました。
■  ■


本来は二重譲渡ですから、Bは登記を具備しなければ、Cに対して所有権を主張できません。

しかし、事例の場合、Bは登記を具備していなくても所有権をCに対して主張できます。

このようなCを背信的悪意者と言います。背信的悪意者に対しては、登記なくして所有権を主張できるのです。事例の場合のCは、なんとなく「悪いヤツ」のような気がしませんか?Cは「正当な利益を持っている」とは言い難いですよね。このようなCに所有権を認める必要はありません。逆にBを保護すべきです(Bに所有権の主張を認めるべき、ということです)。

よって、Bは登記なくして所有権をCに主張できるのです。


このような者は保護に値しません。かかる者に権利を認めていたのでは、あまりにBがかわいそうです。社会における取引というものが正常に機能しません。

しかし、ここで気をつけないといけません。次のような場合です。

BがAから土地を取得しましたが、Bは登記を備えていません。このとき、AB間の事情を知っているCが、Aから土地を取得し、Bより先に登記を備えてしまいました。

この場合のCは「第三者」にあたります。つまり、Bは登記を備えていない以上、Cに対して所有権を主張できません。


このように、単に知っているだけにすぎない者のことを、背信的悪意者と区別するために、単純悪意者と言う事もあります。単純悪意者は、登記を備えれば保護されます。つまり、権利を主張できるわけです。背信的悪意者と違うところです。

では、なぜ単純悪意者は保護されるのでしょうか?つまり、なぜ「第三者」に当たるでしょうか。

日本は資本主義社会です。通常の取引の範囲内と言える部分は保護されます。許される範囲の「出し抜き」は保護されるのです。そして、単純悪意の場合には、先に登記を備えるということは、競争社会の中では許され、保護すべき形態なのです。自由競争の範囲内ということになるわけです。

悪意で、かつ登記を備えていないことに乗じて相手に高く売りつける、というような場合が保護されないのです。競争の範囲を逸脱しているということです。このような者が「背信的悪意者」にあたるのです。

また、そもそも登記というのは法務局に書類を提出した順になされるので、もともと「早い者勝ち」の性質を有するものなのです。


背信的悪意者以外にも、全くの不法占拠者や無権原者も「第三者」にあたりません。具体的には次のような場合です。

A所有の土地を、Bが売買により取得しました(未登記)。しかし、Cが当該土地の上に何らの権利もなく、居座っていました。このときBは登記を備えていなくても、Cに対して土地の所有権を主張できます。Cが「第三者」にあたらないからです。Cが「正当な利益」を有していないのは明らかですね。

 

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住宅というものは、そこに一つだけ建っている場合もありますが、住宅地などを形成し、ある程度集まって建っていることのほうが多いことと思います。都市部では、ほぼそうなっていますよね。

そのように、ある程度集まってくると、お隣さんというものができます。この場合、そのお隣さんとの関係を考えなくてはなりません。これが相隣関係です。

この分野は、わりと常識で考えると解けることが多いです。隣同士のことですから、常識的なことを規定しているというのも、うなずけますよね。それに、そもそも民法は一般市民生活について規定している法律ですから、あまり常識から離れた規定があっても困りますしね。

ところで、お隣さん同士についての規定のことを、一般に相隣関係などと言います。この相隣関係について、

「となりの木の枝が、塀をこえて伸びてきたらどうするの?」

という問題があります。このような点については、知っていないと解けないかもしれません。それに、なんとなくこういうことを知っていると、法律を勉強している気になるのは私だけでしょうか。家族や同僚などに対しても、「法律を知っている」と思わせることが出来るような気がしてしまいます。まあ、それだけ身近な問題ですしね。

では、具体的にはどうなるのでしょうか。代表的な二つの場合につき、次で見ていきましょう。


●隣の木の枝が、塀を越えてきた場合
隣の家の木の枝が、塀を越えてきた場合、「木の枝を切ってくれ!」と隣の人に請求できます。請求ができるだけです。自分で勝手に切ってはいけません。
木の枝は、明らかに隣の家のモノです。木の枝の所有権は隣の家の人にあります。それにもかかわらず、勝手に切ってしまっては、所有権侵害です。ですが、塀を越えてきているので、自分の土地の上空を侵害しているとも言えます。ですから、切ってくれという請求が出来るのです。

これ、ちなみに柿の実でも同じですからね。塀を越えて生っている実は、勝手に取って食べていいわけではないですからね。依然として隣の家のモノですからね。

もし仮に、隣人の柿の木が、塀を越えて実をなし、その実が自分の家の敷地に落ちたとしても、依然として柿の実の所有権は隣の家の人にあります。遊んでいるときに、ボールがどこかの家の庭に入ってしまったとしても、その家の人のボールにはならないのと同じです。

ですから、自分の家の敷地に隣の家の柿の実が落ちた場合、法律上は隣の家の人に返さなければならないことになります。もし落ちた柿の実を勝手に食べてしまった場合、占有離脱物横領罪になりますのでご注意を!(あくまで「法律上」の話です)

ただ、良好な隣人関係を築くためには、塀を越えて隣の家に枝が伸びそうだったら、早目に切るのがいいのではないかと思いますけども。


●隣の竹の根っこが、境界線を越えて伸びてきた場合
根っこが隣の家から伸びてきた場合には、勝手に切ってもよいことになっています。根っこから、竹の子が生えてきた場合には、その竹の子は、生えてきた家のものです。ですから勝手に切ることが出来ます。

上記二つの場合、どこから生えてきたかがポイントです。
木の枝は、隣の家から生えてきてますよね。
それに対して、隣の家の根っこが伸びて、自分の家の庭から芽が出てきた場合には、自分の家の庭から生えてきています。もともとは隣の家の木だったとしても、自分の家の庭から生えている以上、切ることができるわけです。切って、その竹の子を食べてしまってもいいわけです(食べられるなら)。

もちろん、良好な隣人関係を築くためには、一言言ってから切ったほうがいいかもしれませんよ。


いずれの場合についても、隣同士なわけですから、法律を持ち出す前に、両者の話し合いで解決が出来るのであれば、それに越したことはないと思います。

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■これ、「えいこさくけん」と読みます。物権の中の一つです。行政書士試験や公務員試験には、あまり出題されないかなと思ったのですが、言葉ぐらいは知っておいてもいいかなと思いましたので、簡単に取り上げます。

 

永小作権とは、小作人が小作料を支払って、他人の土地において耕作又は牧畜をする権利をいいます。永小作権を取得しようとする者は、通常は土地の所有者と永小作権の設定契約を結びます。永小作権を有する者を永小作権者と言います。永小作権者は、設定契約の中で定められた目的の範囲内で、土地を使用する事が出来、収益を取得出来ます。

 

永小作権の存続期間は、20年以上50年以下と定められています。もし当事者間で50年以上の期間を定めた場合には、50年に短縮されます。当事者間で存続期間を定めなかった場合には、30年とされます。

 

 

永小作権は地上権と同じく物権の一つであり、他人の土地を利用するという点も同じです。ですので、比較しての出題もあるかもしれません。永小作権は地上権と同様に、抵当権の目的となりえます。つまり永小作権に、抵当権を設定することが出来るわけです。

 

ただし、永小作権においては、小作料の支払いは、契約の要素です。これは地上権とは違うところです。地上権においては、地代の支払いは要素ではありません。気をつけましょう。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■資格試験においては、あまり出題されないかもしれませんが、ここでは留置権を取り上げます。行政書士試験においても公務員試験においても、出題される可能性は低いかもしれませんが、言葉としては知っておいたほうがいいと思いますので、ここで取り上げたいと思います。

 

 

留置権は、「りゅうちけん」と読みます。意味を簡単に言いますと、「自分の手元に留め置く権利」ということです。要するに、相手に渡さずに、自分で持っていてよい権利です。

 

具体的な事例を一つ挙げましょう。

 

雨の日などには、皆さん傘をお使いになることと思います。お店の中に入るときなどには、傘入れの中にまとめて来店者が入れておきますね。お店を出るときに、間違えて他人の傘を、持って行ってしまうこともあるかと思います。このとき、AさんはBさんの傘を持って行き、BさんはAさんの傘を持って行ってしまうとします。そうするとAさんとしては、Bさんに対して「自分の傘を返せ」と言えます(所有権に基づく返還請求)。このときBさんは留置権を主張できるのです。このときのBさんの主張は、「傘は返す。但し、傘の返還は自分の傘(Bさんの傘)の返還と同時だ。それまではAさんの傘は自分の手元に置いておく」というものです。これが留置権です。

 

試験での出題可能性があまり高くないと思われますので、これ以上はやりませんが、留置権という言葉の意味ぐらいは知っておいて下さい。そうすればもし試験で出題されたとしても、あわてることもないかと思いますので。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■抵当権は、担保物権の分野の中では、一番の花形とも言える箇所です。行政書士試験、公務員試験のいずれにおいても、また法学検定など他の資格試験、検定試験においても、出題の可能性は非常に高いです。というよりも、抵当権の中からどこかが、ほぼ間違いなく出題されると言っても、過言ではないでしょう。

 

ここでは、まずは抵当権の基本的なことをお話しますので、確実に押さえて下さい。

 

Aが、B銀行から平成10年4月1日に、お金を借りたとします。そして、Aが所有する土地に、B銀行のために抵当権を設定しました。この場合、「平成10年4月1日の金銭消費貸借」のために、抵当権が設定されていることになります。

 

この場合、B銀行のことを抵当権者、Aのことを抵当権設定者(または単に設定者)と言います。さらに、この場合には債務者と設定者が一致しています。しかし、B銀行がAにお金を貸すにあたって、C所有の不動産に、抵当権を設定することもあります。このようなCのように、第三者が担保提供する場合、その第三者Cのことを物上保証人と言います。

 

ちなみに、「平成10年4月1日の金銭消費貸借」のことを、被担保債権といいます。

 

このようにある特定の債権債務について、その債権を担保するために設定されるのが抵当権です。そして抵当目的物の占有は、設定者に残されたままという特徴があります。つまり抵当権者であるB銀行は、目的物である土地を占有しません。占有するのは、設定者であるAです。Aは、抵当権が設定されている土地を占有したまま、自由に使用収益してよいのです。ですからAとしては、土地に抵当権を設定しながら、その土地の上に建物を建てることも自由に出来ます。Aが建物を建てたとしても、B銀行としては、「抵当権の侵害だ」とは言えないことになります。

 

そして、6年後の平成16年4月1日に、借りたお金を、AがB銀行に対して返済したとします。

 

そうすると、まず、AB間の金銭消費貸借がなくなります。当たり前ですね。返済したのですから。

そして、この場合、さらに先ほどの抵当権も消滅します。Aが設定した抵当権は「平成10年4月1日の金銭消費貸借」のために設定したものです。そして、この金銭消費貸借が返済によりなくなったわけですから、抵当権はその存在意義をなくしたわけです。これを「抵当権の附従性」といいます。

 

もし、AがB銀行にお金を返済してくれなかった場合には、B銀行は土地をお金に換えて、そのお金から優先して返済を受けることが出来ます。これを優先弁済的効力と言います。

 

なお、平成15年4月1日の段階で、B銀行がAに対する債権をC銀行に債権譲渡していた場合、抵当権も債権にくっついて移転します。つまり、C銀行がAに対する債権者となり、抵当権者となるわけです。これを「抵当権の随伴性」といいます。

 

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法定地上権は、抵当権の中でもわりと出題しやすい箇所だと思います。実際、資格試験のいろいろなところで出題されています。行政書士試験や公務員試験受験生はもちろんのこと、他の試験の合格を目指す方も、しっかりと勉強しましょう。

 

 

■事例■

Aが、ある土地を所有し、その土地の上に建物を所有して、そこに住んでいました。Aは、B銀行からお金を借りるにあたって、その土地に抵当権を設定しました。Aは順調にB銀行にお金を返済していましたが、ある時資金繰りに滞り、返済できなくなりました。

そこで、B銀行としては、担保にとっていたAの土地を競売して、その代金をAからの返済金にあてました。このとき、競落人はCでした。

■  ■

 

 

この事例を前提に、お話を進めていきましょう。

なお、競売とは、簡単に言えば売却することです。競落人とは、簡単に言えば競売によって不動産を取得した人です。言うなれば、買主です。

 

このような競売がなされると、土地の所有者はC、建物の所有者はAとなります。建物には抵当権が設定されていませんでしたから、引き続きAが所有することになります。競売の結果、Aの建物は、他人のCの土地の上にのっかっているわけです。

 

しかも、CとAとの間では、土地を利用することの約束などは何もなされていません。そうなると、Aの建物は、Cの土地を侵害していることになってしまいます。Aには何も土地の利用権原がありませんからね。その結果、Aは建物を移動させなくてはなりません。建物を移動させるということは、これは壊すということです。建物を、そっくりそのまま移動させるということは、事実上不可能だからです。

 

もしここで、CがAとの間で土地の賃貸借契約などを締結してくれれば、Aは建物を移動させる(壊す)必要はありません。しかし、Cとしてはせっかく取得した土地です。自分で土地を使いたいはずです。そうなると土地の賃借などするはずがありません。

 

しかし、すでに建っている建物を壊すということは、社会経済的に見て非常に損失が大きいです。はっきり言って、もったいないです。

 

そこで、考え出されたのが、法定地上権という制度なのです。

 

地上権というのは、簡単に言えば他人の土地を利用する権利です。通常は、土地の所有者と、土地を利用したいと思う人との間での契約によって成立します。

 

しかし、先ほどの例を見て下さい。

 

先ほどもお話ししましたが、新しい土地の所有者であるCは、Aを追い出したいと思えば、当然Aと賃借権や地上権を設定する契約なんて締結するはずがありません。

 

それでは、建物を壊さなくてはなりませんので、「特に法が定めた地上権」が成立するのです。これが法定地上権です。建物を壊すということは、社会経済的に見て損失が大きいので、なるべく建物を存続させたいという、要請があるわけです。

 

法で、Aに法定地上権という地上権の成立させ、そのまま土地の利用を認め、建物を壊さなくてもいいようにしたのです。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■法定地上権に関する出題は、要件にかかわる問題が多いように思われます。要するに、「この場合に法定地上権が成立するか」というような問題です。一概には言えませんが、行政書士試験にしても公務員試験にしても、要件を覚えておいて損はありません。例外事例が出題されることもあるかとは思いますが、まずは基本となる要件をきちんと覚えましょう。

 

 

建物の存立を図るとは言っても、どのような場合でも、法定地上権が成立するわけではありません。常に法定地上権が成立するとしたのでは、今度は競落人に酷ですし、抵当権者を害します。

 

そこで、法定地上権が成立するための要件を、法は次のように定めています。

 

1、抵当権設定当時に建物が存在すること

2、抵当権設定当時に土地と建物が同一人に属すること

3、土地と建物の一方または双方に抵当権が設定されること

4、競売の結果、土地と建物が別々の者に属するに至ったこと

 

上記1から4の要件の中にも、それぞれに細かい問題点がいろいろありますが、まずは4つの要件を覚えることが先決です。

 

ここでは1と4について、簡単にコメントしておきます。

 

▼1、について

土地に抵当権を設定後、土地所有者が建物を新築し、土地について競売がされた場合

 

この場合、法定地上権は成立しません。通常、このように設定時に更地(土地の上に建物がないこと)の場合ですと、抵当権者は土地を更地として評価します。

 

しかし、もし法定地上権が成立しますと、競落人は土地の上に建物が建っている土地を取得することになるので、自由に土地を使うことができません。このような土地を競落する人は、なかなか現れません。そうすると競売の値段が下がりますから、土地を更地と評価した抵当権者を、害することになってしまいます。

 

よって、このような場合には、法定地上権は成立しないのです。

 

抵当権設定時に、建物が建っていれば、抵当権者としては、「法定地上権が成立する可能性があるな」と予想できます。

 

したがって、設定時に建物の存在が要求されるのです。

 

逆に言えば、設定時に建物が建っていなければ、抵当権者としては、「法定地上権が成立しないな」と考えるわけです。

 

 

▼4、について

これは、競売の結果、同一人が所有するのであれば、法定地上権は無意味となることを示しています。

 

つまり、同一人が所有するのであれば、自己所有の土地の上に自己所有の建物を所有するわけですから、土地の利用権たる地上権など必要ありませんよね。

 

ですから、競売の結果、土地と建物が別人の所有となることが必要なのです。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■事例1■

Aは土地と建物を所有していました。B銀行からお金を借りるにあたって、土地と建物に抵当権を設定しました。

■   ■

 

 

このように、複数の不動産に抵当権を設定するのが共同抵当です。抵当となる物件が複数あり、複数の不動産に共同して抵当権を設定するという場合です。複数と言っても、いろいろありますね。土地と建物、土地と土地、建物と建物などです。いずれの場合でも、複数の不動産に抵当権が設定されれば、共同抵当になります。

 

事例の場合、競売がなされると、B銀行は土地と建物の代金両方から、お金を返してもらえます。このように、両方からお金を返してもらえるところに、共同抵当の意義があります。一つの不動産だけだと、貸したお金が全額回収できない場合がありますよね。でも複数の物件に抵当権を設定することによって、貸したお金を回収できる可能性が高くなりますもんね。

 

ちなみに、競売の代金からお金を返してもらうことを「配当を受ける」と言います。

 

 

ここで、気をつけないといけないことがあります。上記の例は、土地と建物の両方に抵当権を設定していた場合です。

 

次の場合とは区別しなければなりません。

 

■事例2■

Aがその所有する土地に、B銀行のために抵当権を設定しました。その後、Aはその土地の上に、建物を建てました。

■   ■

 

このとき、B銀行が競売しようとするときは、B銀行は土地とともに抵当権のついていない建物も同時に競売できます。

 

しかし、B銀行が配当を受けることのできるのは、土地の代金からのみです。建物の代金から配当を受けることはできません。抵当権を設定しているのは、土地だけだからです。

 

この場合に、抵当権のついていない建物も同時に競売できるのは、建物を壊すとなると社会経済的に損失が著しいからです。なるべく建物を壊したくないということです。

 

しかし、建物に抵当権を設定していない以上は、そこから配当を受けることはできません。当たり前ですよね。

 

 

法定地上権の場合もそうでしたが、いったん建物が建てられた以上は、壊すことはもったいないという考え方が、根底にはあるのです。そこで、抵当権者やら競売人の権利を害さないならば、建物を残そうという方向になるわけです。

 

 

事例1と事例2の違いがわかりましたでしょうか。

 

事例1は、土地と建物の両方に、抵当権が設定されていた場合です。それに対して事例2は、土地にしか抵当権が設定されていません。そこが違います。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■根抵当権は、行政書士試験や公務員試験などでは、ほとんど出題されないかもしれません。実務的は、よく使われている権利なのですが、試験という面では、司法書士試験を除いて、あまり出題可能性が高いとは言えません。法学検定などでも、出題される可能性は高くないでしょう。ですが、肢の一つとして出題されるかもしれませんし、またもし出題されたときに試験会場であわてないためにも、一通りどのようなものか見ておきましょう。

 

なあ、根抵当権は、抵当権の理解が前提となってきます。ですので、きちんと抵当権を理解しておきましょう。

 

 

総論

抵当権の場合は、被担保債権が消滅すると抵当権も消滅します。したがって、いったんお金を返し終わった後、またAがB銀行からお金を借りて、B銀行が担保を要求すれば、あらためて抵当権を設定しなおす必要があります。附従性でしたね。

 

しかし、それってとても面倒だと思いませんか。手間隙かかりますし。一回一回、抵当権を設定しなおさないとならないわけですから。

 

そこで考え出されたのが、根抵当権です。

 

根抵当権の場合、一つの金銭消費貸借が返済されたとしても、根抵当権は消滅しません。

これは、根抵当権は極度額という一定の金額が定められ、その金額に至るまで債権債務を担保する性質のものだからです。この極度額というものは、被担保債権の金額とは違います。簡単に言えば、何回お金の貸し借りがあろうとも、この極度額に至るまで、根抵当権者は優先的にお金の返済を受けられるという、いわば目安となる額です。

さらに債権の範囲というものも定められます。この債権の範囲とは、根抵当権によって担保される債権が何かを決めるものの一つです。売買取引や銀行取引等のように規定されます。売買取引と規定された場合には、賃貸借取引によって発生した債権は担保されません。AとB銀行の間に発生した債権債務であれば、なんでも担保されるわけではないのです。

 

このような極度額や債権の範囲等といったものによって決められた、ある一定の範囲に属する債権を担保するのが、根抵当権なのです。

 

例えば、AとB銀行との間で極度額1000万円、債権の範囲を銀行取引と定め、根抵当権を設定したとします。この場合、AがB銀行との間で100万円を借りたとします。(第一取引)。そして、一年後にその返済が終わったとします。さらにまた、100万円を借りたとします(第二取引)。そうすると、第一取引、第二取引のいずれも、最初の根抵当権で担保されています。

 

このように、一つの金銭消費貸借が終わったとしても、根抵当権は消滅しないことを、「根抵当権には附従性がない」といいます。

 

さらに、もし第一取引にかかる債権を、B銀行がC銀行に債権譲渡したとします。そうだとしても、根抵当権は移転しません。これを「根抵当権には随伴性がない」といいます。

 

抵当権は、ある特定の債権と結びついて運命をともにしますが、根抵当権は特定の債権と結びついていないのです。これが重要です。特定の債権と結びつかない担保権として考え出されたのが、根抵当権なのです。

 

ただし、根抵当権も「ある特定の債権を担保し、このあとからの債権は担保しない」という状態がいずれは到来します。これを元本の確定といいます。元本の確定が生じると、附従性や随伴性が生じます。「元本の確定」という言葉と「元本の確定が生じると、附従性や随伴性が生じる」ということは覚えておいて下さい。元本の確定が生じると、ほとんど抵当権と変わらなくなります。

 

 

利息について

抵当権の場合は、担保している利息は、最後の2年分でしたね(374条)。

 

しかし、根抵当権の場合は違います。根抵当権には極度額というものがあります。この極度額までは、担保するのです。後順位抵当権者にしても、前の根抵当権者に極度額まではお金をもっていかれてもしょうがない、と考えているはずです。

 

したがって、3年分でも、4年分でも、極度額までは担保するのです。

 

例えば、極度額1000万円の根抵当権をA所有の土地に、B銀行が設定したとします。B銀行の債権が500万円でしたが、利息がどんどんたまって5年分になってしまったとします。この場合でも、当初の債権と利息を合わせた金額が、極度額1000万円の範囲内でしたら、根抵当権で担保されるのです。

 

 

元本確定

根抵当権が担保する債権は不確定とは言っても、いつまででも不確定なわけではありません。どの債権を担保するのかが、決まることを「根抵当権の元本確定」、または単に「元本確定」といいます。

この元本確定が生じると、根抵当権はほぼ抵当権と同じ働きになります。よって、元本が確定すると附従性や随伴性が生じます。間違えないようにしてください。

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